がんばれ「宇宙品質にシフト MOMO3号機」!インターステラテクノロジズ 稲川貴大社長インタビュー

Rheos Now

北海道大樹町を拠点として、シンプルで低コストなロケットの開発を行なっているインターステラテクノロジズ。レオスがスポンサーとなった観測ロケット「MOMO2号機」は残念ながら落下炎上という結果になりましたが(レポートはこちら)、次なるチャレンジとなる「宇宙品質にシフト MOMO3号機」は、4/30に打ち上げ予定です。

<4/30打ち上げ!「宇宙品質にシフト MOMO3号機」>
今回も広告スポンサーとして、機体にはわたしたちのキャラクター「ひふみろ」があしらわれています。

観測ロケット「宇宙品質にシフト MOMO3号機」実験概要説明記者会見


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観測ロケット「宇宙品質にシフト MOMO3号機」の打上げ実験実施について

こちらでは「宇宙品質にシフト MOMO3号機」の応援もこめて、インターステラテクノロジズ稲川貴大社長のインタビュー「ロケットが拓く地域産業」を掲載します。

※こちらは、2018年ひふみの運用報告会ゲストトークのダイジェストです。
2018年11月18日 @札幌サンプラザ 聞き手:藤野英人(レオス・キャピタルワークス代表取締役社長・最高投資責任者)

【プロフィール】
稲川 貴大(いながわ たかひろ)
東京工業大学在学中に鳥人間コンテストに出場し、人力飛行機チームの全体設計を担当。大学院終了後は小型ロケット開発会社であるインターステラテクノロジズ社に入社、2014年に代表取締役に就任。現在は経営と、技術面では主にシステム設計・制御系設計を担当している。

失敗しても「燃えてるぜ」

――皆さんもご存知だと思いますが、わたしたちもスポンサー支援していた2018年6月のMOMO2号機の打ち上げは、失敗という結果でした。あのときどんな気持ちでしたか。

もともとゴールデンウィークのタイミングで打ち上げようと準備をしていました。ロケットの機体自体はできていて、真ん中に大きく「ひふみろくん」を描いたロケットを準備していました。ですが、われわれの技術的なトラブルのせいで、部品の交換の必要があって、延期になった、それさえもかなりつらい決断でした。もう藤野さんはじめレオスの関係者の皆さんにも来ていただいた中、申し訳ありません、と……。

ロケットってメカとしては、軽く作らなきゃいけないのに、高エネルギーを出さなきゃいけない、という極限のもので、一つ一つの部品がそれなりに難しい技術です。延期したあと、ロケット自体は部品を一つ替えただけではあるんですが、運用方法、オペレーションを変えました。われわれはロケットをただ単に打ち上げ一回やってお祭り騒ぎで終わりにするのではなくて、宇宙にモノを運ぶ輸送サービスにしたいという志でやっているので、機体の運用方法、人の動きまで含めて、打ち上げまでのオペレーションのトレーニングを2カ月間、繰り返しやりました。いよいよ準備できたぞというのが6月末の打ち上げだったんですね。

でも、実際に打ち上がったあと、すぐに異常があって、安全装置がすぐ働いてエンジンが切れて、そのまま落下、炎上したと……。

かなり衝撃的な映像で、ネットでもバズって、NHK朝から晩までトップニュースだったという。露出効果は非常にあって、広告代理店の方からもあれはすごいと言われました(笑)。


一般のお客さんは発射場から2kmくらい離れたところ見てもらっていたのですが、われわれは10人ちょっとの少人数で、発射場から1kmのところでコントロールをしていました。実際は「何が起こったかわからない」っていうのが最初でした。何か燃えている、どうしたんだろう、ってまず頭の中も真っ白で何もわからないっていうのが……。

――私も2km離れた場所から見ていたんですが、そこからはただすごい音がするけれど、何が起きたかわからなかったんです。後で、動画を見て様子がわかって、そこで思ったのは、インターステラのチームがやる気を失ってしまっていないかということでした。気持ちが萎えたりすることはなかったんでしょうか。

火が上がっているうちは危ないから近づけなかったんですが、火が消えてすぐ私も含めて技術の人間が現場に入り、原因究明を始めていました。墜落した場所から部品って結構飛び散るんですが、どの部品がどの場所に落ちてどういう状態だったかって写真を一枚一枚撮りながら、記録取りながら回収していって。元の機体の状態に復元して何が起きたかというのを、昼から始めて夕方、暗くなる前まで総出で全部やりました。その日のうちに写真データは全て社内で共有して、原因究明はかなり早いスピードでやりました。

われわれ物作り系の研究開発型のベンチャー企業なので、めげるどころか、こういうときには技術者って大体逆に燃えるものです。目の前に、誰の目で見てもはっきりわかる大きな課題があると、もうすごく燃えてしまう。こういう解析作業って普通は相当時間がかかるもので、例えば国のロケットの失敗って10年以上前ぐらいには何回かあったんですが、原因究明から対策にかかるまでって平気で1年とか、対策できるまでに2年とか、そういうスケジュールでした。ですが、われわれの原因究明は6月末に起こったことが7月、8月、大体2カ月から3カ月ぐらいで。これだけスピード早く原因究明できたというのは、すごくモチベーション高く、技術、現場の人間が動けたからだと思います。

――そのあと売っていたTシャツがすごくて、MOMO2号機が爆発して燃えている現場のイラストに「燃えてるぜ」って書いてあるんですよ、ちょっとギャグです(笑)。実際に現場の人たちが本当に燃えて頑張っているので、頼もしいなと思っています。

インフラとしてのロケット屋さんの可能性

――そもそも稲川さんたちが挑戦されているのが「小さくて安いロケットを開発しよう」というための実証実験でした。このビジネスの可能性について教えていただけますか。

人工衛星ってコンピュータ、センサーの塊なわけですが、スマホの進化と同じで小さい人工衛星が出てきたのがここ最近の流れです。価格もかなり下がって、まだ高いですけれども、数億円ぐらいになってきました。一方で、それを運ぶ小さいロケットっていうのが、まだ市場に存在してない、世界的に見てもありません。それで「小さいロケットを作って小さい荷物を運ぶ」ということが必要ではないか、と。じゃあ、H-IIAロケットって1機打ち上げるのに100億円ぐらいかかるんですね、とんでもなく高い。高コスト体質の宇宙開発を劇的に変える必要があるんです。既存のやり方を捨てて、どうやったらロケットが安くなるんだろうっていう、そういう発想で、ゼロから開発しているっていうのがわれわれのロケットです。

MOMOはまずは「宇宙に行きましょう」という段階のものです。その次に2段ロケット、人工衛星を持っていくイメージです。実はMOMOと同じような大きさのロケットを、国でも打ち上げを行なっているんですが、そちらは1回の打上げに大体数億円かかるといわれています。それに比べてうちのロケットは、1桁安い値段で製造、打ち上げまでできる。本当に何もないところからコスト最優先で作ってきたものを、今まさに実証しているところです。

ロケットが安くなれば、「荷物を宇宙に運ぶ」インフラとしてのロケット屋さんというサービスが成り立ちます。人工衛星を作っている会社が「宇宙に運んでください」と言われたら預かって運んであげる。今、小さい人工衛星っていうのはもうすごい数の企画がされていて、荷物を預けたい人はたくさんいるのに運ぶロケットが足りていない状態です。

小さい人工衛星の需要として一番革新的なのが、衛星インターネットです。日本ではそんなにメリットがわからないですが、世界規模で見ると10億人にインターネットが届いてないという課題があります。いちいち陸上に基地局建てるのは費用対効果で元が取れないといわれていますが、そこでわれわれが運べるぐらいの小型の人工衛星を飛ばして、地球の周りに並べておくわけです。孫さんが投資していることでも有名なワンウェブという会社がありますが、かなり革新的なことになると思っています。

もう一つの可能性は、地球観測衛星です。Google Earthって結構高精度に自分の家とか見えますよね。でも毎日は更新されていません。見てもらえばわかりますが、半年前から2年前の画像が出ています。地球を観測している人工衛星にそんなに数がないし、どうしてもそのくらいの更新頻度になる。特に田舎だと更新頻度が遅いんです。例えば大樹町は大体2年前の画像が貼りつけられています。

それは、やっぱり人工衛星が数百億円かかるプロジェクトだからです。小さくて安い人工衛星を並べることができれば、解像度は落ちるかもしれないけど、高頻度に撮れるようになる。毎日Google Earthが更新される世の中になると、ビッグデータになりますね。人工衛星を使った解析技術によって情報産業が生まれます。

北海道大樹町から宇宙産業を

――ロケットの射場に北海道の大樹町を選ばれた理由は?

ロケットは必ず東側か南側に打ち上げます。なので、東側と南側の海が空いている地域が射場として最適なんですが、こんな場所ってそうそう世界中ありません。例えばヨーロッパが困る地域で、東に打ち上げようと思ったらロシアに疑いをかけられてしまうわけで(笑)、どうするかというと南米まで行って赤道の近くの仏領ギアナに持っていって打ち上げをしていたりします。

その点、大樹町って東側も南側も空いています。そして最低限のインフラが必要でもありますが、帯広空港という空港もありますし、陸続きでもちろん札幌にも続いている。地理的、産業的なあらゆる面で日本の大樹町は世界有数のポテンシャル持つ地区だと考えています。ただ、今は本当に何もなくて……可能性はあるけれど何もないところなので、こういうところに新しいロケット基地を小さくてもいいから作っていこうと考えています。

――大樹町の宇宙ビジネスって、経済効果はどのくらい見込まれているんでしょうか。

いろんな統計が出ていますし、これからの話なので上ぶれ下ぶれがもちろんあるんですが、相当大きな産業になるだろう、と。衛星インターネットにしても、地球観測にしても、宇宙を使った新しい産業がどんどん出てくるという世界中でレポートが出されています。今、日本の宇宙産業の規模って大体1.5兆円ですが、あと10年以内に2倍にしようという政府の意向もあって、やはり成長産業として見られています。

北海道内のレポートですが、日本政策投資銀行札幌支店の道内経済規模予測では、われわれのロケットの打ち上げと今後やろうとしていることが実現した場合、年間で北海道内に267億円の経済波及効果があるだろうと書かれています。北海道新幹線の経済波及効果を同じ政策投資銀行がレポートを出しているんですが、こちらが大体200億円ちょうどということで。新幹線が200億円、ロケット267億円、ロケットのほうが北海道内への経済効果は大きいと見込まれているんですね。

――実際に地元紙も非常に力を上げて応援していて、かつ地元のボランティアの方がかなり期待をしていると思います。

インターステラの大樹町後援会というのがあります。株式会社に対して地元で自発的に後援会を立ち上げていただくなんて、そもそも相当珍しいですよね。大樹町って5700人ほどの小さい町で、会員が250人ぐらいいらっしゃいます。人口の5%以上がうちの後援会に入って、コアなファンになってくださっているっていうすごい状態です。後援会の皆さんは本当に自発的に「何か手伝うことないですか」と、もうほとんどボランティアの押し売りに近いぐらいの勢いで営業をかけてくれまして。実際にやることはいっぱいあって、本当に申し訳ないのですが、打ち上げのときの交通整理とか、駐車場案内係とか、差し入れで朝ご飯入れてくださったり、そういうあらゆることでお手伝いをしてくださりました。

初号機も2号機も成功とはいえないかたちでしたが、その後の懇親会というか、「打ち上げの打ち上げ」をやったときに、当然われわれも、すごくへこんでショックな状態ではあったんですけど、むしろ後援会の方々のほうが熱かった。「次は絶対うまくいくから」、「次の打ち上げ季節はいつだ、そこまでに何をしなきゃいけない」、「今回の反省点はこれがあったからここを直そう」とか、とんでもなく前向きなんです。

今回のトークテーマが「感謝」ということですよね。われわれは支援してくださった皆さんに本当に感謝をしているんですが、逆にその懇親会の場で後援会の方々から「インターステラさんがいてくれてよかった」「こういうチャレンジをしてくれてありがとう」と、なぜかわれわれが感謝されてしまうんです。大樹町という場所でやる意義の一つ、地元貢献に少しにはなっているのかなと感じました。

――次のチャレンジのほうは、どうでしょうか。

はい、原因究明もして、次の3号機は機体の製造をどんどん進めているところです。かなり近いうちにやりたいな、と。打ち上げに向けてクラウドファンディングもやって開発費用を支援くださる方もたくさん出てくださりました。初号機、2号機よりも3号機は実際にお金を出して支援してくださる方が多く出てくれたということで、大きな期待もされています。

宇宙空間に出るというのがMOMO初号機、2号機、3号機の目標ですが、それが成功したら、ロケット輸送事業も少しずつ展開していければと思っています。

――成功をお祈りしています!稲川社長率いるインターステラの皆さん、そして後援会の皆さん、失敗を乗り越える姿が本当に頼もしく輝いています。皆さんも引き続き、ぜひ応援をよろしくお願いいたします。