新たな挑戦を生み出し続ける、十勝という地域の力 -ひふみフォーラム in 十勝レポートVol.2 -
Rheos Now
3月31日、北海道・帯広市にて開催しました当社のイベント「ひふみフォーラム in 十勝」。4名のゲストをお迎えしましたが、まずお一人目のゲストは野村総合研究所の齊藤義明さんでした。
齊藤 義明(さいとう よしあき)
1988年野村総合研究所に入社。NRIアメリカワシントン支店長、コンサルティング事業本部戦略企画部長などを経て、現在、未来創発センター2030年研究室室長を務める。2030年研究室では「革新者プロジェクト」を手がけ、新しいビジネスモデルを生み出して成功を収めている革新的な経営者と、地方の志ある人々との交流を刺激し、その化学変化によって新事業を生み出し育てる。その「イノベーション・プログラム」の最初のモデルの場所として十勝が選ばれ、2015年にスタートした「とかち・イノベーション・プログラム」はこれまでに多くの地域愛に溢れる起業家を生み出してきた。
数値で未来を予測しない、現場主義の異色のコンサルチーム
「2030年研究室」というちょっと変わった名前のチームを率いる齊藤さん。5年前に野村総合研究所内に誕生した、特殊部隊のようなチームなのだといいます。
〝少し先の未来を見る〟
その名の通り、未来を予測することを目的に発足したこのチーム。しかし齊藤さんが始めたことは、数値を集めてレポートを作ることでもなく、有識者を集めて政策提案をすることでもなく、日本中の現場を歩き回ることでした。
齊藤さん:
非常に面白い着眼点によって、従来になかったようなビジネスモデルを作り出そうとしている経営者の方々を発掘し、様々な領域で100パターン以上集めたいと思いました。
現場で生まれた具体的でユニークなモデルの中から、少し先の日本の未来を考えることはできないだろうか。それが100人の革新者を集めるという「革新者プロジェクト」でした。
不確実なものを受け入れる、地域が持つ力
仲間として繋がった100人の革新者とともに始めたのが「イノベーション・プログラム」でした。革新者のみなさんが持っている、イノベーションを起こす力や新規事業を作り出すノウハウを、地域に集った起業家人材と掛け合わせることで、地域に新しい事業の種を作るプログラムです。
齊藤さん:
不確実で結果が出るかどうかもわからない、このイノベーション・プログラムを最初に受け入れてくださったのが十勝です。先ほど、わたしたちのほうが「十勝を選んだ」みたいなご紹介をしていただきましたが、全く逆でして。
市長をはじめ、金融機関のトップのみなさまのご理解があり、支えがあってこの「とかち・イノベーション・プログラム」をスタートすることができました。
このイノベーション・プログラムでは、地域の次世代経営者や潜在的起業家を集め、そこに革新者を〝火種〟として連れてくることで、6ヶ月かけて新規事業の種を生み出していくというもの。十勝では3年前からこの取り組みを始め、これまでに28の事業構想と5つの新会社が誕生しています。
このプログラムが他の全国の創業支援プログラムと違うところは3つあります。
一つは混血イノベーションということ。単独の起業家や経営者が新しいことを一人でやりたいということを支援しません。必ず2人以上の経営者が組んでくださいとしており、自分が持っていない着眼点や実行力の掛け算の中で、新しいものを作り出していくことにこだわっています。
二つ目はNEEDSではなくWANTS。事業を作るときによく社会ニーズを分析したりですとか、ISSUEはなんだっていう言い方をされますが、このプログラムは自分が何をやりたいかというWANTSから出発します。地域課題からブレークダウンせず、自分がやりたいからやる。逆に言うと逃げ場がありません。自分がやりたいと言ったんだから。
三つ目はど真ん中をつくること。日本の地方創生は「ファンドを用意しました」とか「市民を集めてワークショップしました」といったものが多いのですが、お金は用意したけど玉がないということがほとんどです。あれすべき、これすべき、とは言うけれど、でも自分でやらない。小さくてもいいから0から1を自らリスクをとって作り込もうとする人たちと、我々も一緒にもがこう、と。これが最大の特徴です。
爪に土がついたような、スマートじゃない十勝の起業家たち
齊藤さん:
十勝には、東京にはないタイプの独特で魅力的な起業家がたくさんいらっしゃいます。東京とか大都会でいう、〝常識なんか糞食らえ、IT一発で世界を変えてやるんだ〟といったタイプの起業家とは違って、よく見ると爪に土がついているような、そういうタイプの方たちだったんですね。
そう話し始めた齊藤さんは、十勝で活動してきた起業家、新たに誕生した事業モデルなどを具体的に紹介してくださいました。
宮崎と全く逆のサイクルで雪室と温泉水を使って作る「真冬のマンゴー」のノラワークスジャパンの中川裕之さん。冬の十勝平野の大平原を犬ぞりで駆け抜けるマッシングワークスの滝田武志さん。高齢者施設とコラボし羊毛でブランケットを作る伊藤由生子さんなど、十勝らしい事業が次々と誕生している様子が伝わってきました。
このような事業が生まれるムーブメントが「十勝」という場所にあると感じている齊藤さん。なぜ十勝から起業家が生まれるのか。その理由をこう語ります。
齊藤さん:
十勝は家畜と一つ鍋を共にする貧困の中で、原野を切り開いてきた民間開拓者たちのDNAが流れています。国の屯田兵によって開拓された土地ではない、依田勉三率いる晩成社という民間企業がはいってきて、血のにじむような努力と貧困の中で、十勝の開拓に挑んだと。
しかし、失敗するんですね。失敗したから更にこのストーリーはいいんじゃないかと思うんですけど。そんな簡単にかっこよく開拓なんてできるもんじゃないし、ビジネスもそうだと思うんですが、やっぱり失敗する。
ですが、そう遠くない昔に洗礼を受けたこの人たちの魂みたいなものが、十勝の地には生きている。「自分たちで何とかするんだ」という魂が生きていて、それが今日の価値に繋がっているんじゃないかと思います。
損得よりも好き嫌いが重要
十勝から起業家が次々と生まれる理由をそう語った齊藤さん。このプレゼンを受けたレオスの藤野さんのコメントも印象的でした。
藤野:
ビジネスは当然儲けなきゃいけないというところで、損得ってすごく重要なんですけれども、実はわたしは「損得よりも好き嫌いが勝る」と思っているんです。
行けば絶対に損するってところ、好きになるわけないじゃないですか。やっぱり十勝が好きだ。それを好きだっていうのは、好きっていう中に当然儲かるってことも入ってるわけです。
齊藤さんはわたしがすごく尊敬している方なんですけども、今日のお話、とっても具体的でしたよね。こうなればいいね、頑張ろうね、っていう話で終わるんじゃなくて、ちゃんと一緒に汗をかく。この地域をみんなでよくしていこうっていう気持ちが、すごく溢れていました。
地域の外から人がやってきて何かを始めようとするとき、地域の中でそれを受け入れる文化や人がいなければ、「とかち・イノベーション・プログラム」の取り組みは進んでいかなかったでしょう。野村総合研究所内に誕生した情熱ある異色のコンサルチームと、それを受け入れた地域の力。それが組み合わさることで、圧倒的な成果が生まれているように思いました!
ひふみフォーラムレポート・Vol.3に続く
取材・文:神宮司 亜沙美
北海道大樹町出身、在住。大樹町地域おこし協力隊を経て独立。北海道の作り手の物語を届けるオンラインショップ「北海道ローカルマーケット」を運営する他、ストーリーの届け手として企業の情報発信をサポートしている。写真:澤田 希望