ひふみ投信10周年 藤野英人インタビュー(前編)次の10年も、全力を尽くす

ひふみ投信10周年記念

皆様に支えられ、ひふみ投信はおかげさまで10周年を迎えることができました。

最高投資責任者である藤野英人へインタビューを行ないました。前編では、10年という一つの節目にどんなことを考えているのか、今の心境を率直に語っています。

「君の10年を力を尽くして生きなさい」

―――10年、振り返ってみていかがでしょう。

10年、という言葉から思い返すのは、宮崎駿さんの映画「風立ちぬ」のシーンです。イタリア人の飛行機技師が主人公に対して「創造的な人生の持ち時間は10年だ。設計家も芸術家も同じだ。君の10年を力を尽くして生きなさい」と言う。これはおそらく、宮崎さんが自分自身に語りかけているんですが、「彼にとっての10年って、いつのことなんだろう?」と気になっていました。

僕はいつも毎月の運用コメントに「全力を尽くして運用します」と書いているんですが、それはこの映画の「君」と自分を重ねて、「全力を尽くしているのか」の問いに対して語っているところがあります。

2008年、リーマンショックの真っ只中にひふみがスタートして10年経ちました。この節目で考えているのは「自分は力を尽くした10年が終わったのか、それとも力を尽くす10年が始まるのか?」ということです。10年というのはそれなりの重い時間ですよね。これまでの10年、次の輝かしい10年のための準備だったのか、それともこの10年が“僕の10年”であって、次の10年は誰かに引き継ぐべき10年なのか――いつも自問自答しています。

次の10年への意気込み

―――率直に今、どちらの10年、というイメージですか?

この10年ひたすら走ってきましたから、疲れたかと聞かれたら疲れたような気もするんだけれども、じゃあ力を出し切ってしまって力がなくなったかっていうと、全然そんなことはなくて。ここからもっと、力が発揮できるんじゃないかな、と思っています。

僕が世間で「カリスマファンドマネージャー」とか呼ばれていたのが32歳とかなので、もう20年経つんですね。でも、カリスマと言われていた時代より、明らかに今の方が元気です。20年前を知る人に久しぶりに会ったりすると、驚かれます。「若返ってる!」って。

32歳だったんだけど、気持ち的には50歳くらいでした。なんだか疲れ切っていましたね。50代、60代の経営者と話をして、向こうは同年代だと思っている、なんてことがよくありました。

当時、「カリスマ」と言われるのはすごく嫌だったんです。「カリスマじゃないのに、何でカリスマって呼ぶんだろう」って。カリスマって、先のことが見通せているみたいじゃないですか。でも僕は見えたことなんてないんです。いつも暗中模索で、明日何が起きるかわからない、明日死んでしまうかもしれないと思っているから、ベストを尽くすしかない。結果として成績が出ているだけなんだけどな、と。きっと期待されていることが重かったんですね。

あの頃と考え方のベースは変わっていないんですが、変わったのは“抗うことをやめた”ということでしょうか。起きている運命は全部受け入れよう、おもしろおかしく、でも真剣に生きよう。そう考えたら、だいぶ楽になったんですよね。

そんなわけで僕自身が、すごく元気になりましたし、当然ファンドマネージャーとしても経験値が増えて、明らかに運用手法も多様化しているし、信頼できる仲間も増えました。

次の10年に向けて「やってやるぞ!」と思えています。

ひふみが目指す世界へ、スタートライン

―――ひふみは10年で大きく成長しました。次のビジョンは?

ひふみ(マザーファンド)は運用資産残高が8000億円を突破して、もうすぐ1兆円も見えてくると思います。一つのファンドでここまで集めたというのは、確かに過去に誰もやってこなかったことなので、「頑張ったね」とか、あるいは「これが限界だね」とか、いろいろな声が出てきます。

日本の株式投資信託は、ずっと「3000億円の壁」があると言われてきました。でも、僕たちが3000億円を越えても失速しなかった理由は、「たくさんお金が集まったけど、どうしよう?」という「How」ではなく、「どうありたいか?」という「Be」で考えたことだと思うんです。

―――わたしたちが、どうありたいか、ですね。

そうです。ひふみというのは、もともと「日本、そして世界の人に、希望を灯す存在になりたい」というものでした。そう考えれば、いま僕たちはやっとスタートラインに立ったところなのかなと思っています。

北海道から沖縄まで、頑張って働く人たちが頑張ってためたお金を集めて、それをまた、同じく頑張っている会社にシャワーのように還流していき、それが世の中を支えていく――それがひふみの仕組みです。その仕組みがやっと機能しはじめたところなんじゃないか、と。

いずれ実際に日本が豊かになったね、という時に、そのうちのひとつに、ひふみというものが機能していた、そう振り返ってもらえるなら、嬉しいですよね。

だから、僕としては、これからの10年間をいかに全力投球し、力を尽くしていくかというのが大事です。10年後は62歳ですね、でもそのあとさらに70まで頑張るぞっていうのはなんか「老害的」なかんじがするので(笑)、バトンタッチする着地点を探っていきながら、になるんでしょうね。

世の中を元気にするひふみという、ひとつの生命体というか、大きな宇宙というものを、次の世界に継続するための10年にしていきたいと思います。

(後編:これからが楽しみで仕方がないに続く)